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最高裁判所第二小法廷 昭和33年(あ)220号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人本人の上告趣意について。

第一点は、判例違反に言及する部分もあるが、引用の諸判例は本件に適切を欠き、論旨は結局訴訟法違反の主張に帰し、上告適法の理由とならない。そして所論の点について原審のした判断は正当である。

第二点は、違憲をいう点もあるが、結局は訴訟法違反の主張に帰し、上告適法の理由とならない。刑訴規則一七九条一項に違反して、被告人に対する第一回の公判期日の召喚状の送達が、起訴状の謄本を送達する前になされた違法があっても、本件の如く、被告人に対する起訴状謄本の送達と第一回公判期日との間に二〇日の猶予期日が存し、しかも右第一回公判期日において裁判官が訴訟当事者に対し弁論を命ずることなく、被告人に対し十分訴訟準備をするように告げた上公判期日の変更決定をなし、更に一六日先きに次回公判期日を指定しこれを告知したような場合においては、事件の審理につき被告人に十分な訴訟準備の余裕があり、被告人の防御に実質的な不利益を生ずる虞があるとは認められないから、右の違法は未だ判決に影響を及ぼすべきものとはいえない。またたとえ右第一回公判期日前に被告人が裁判所に書面を提出して、右の違法を理由とする異議の申立をしたにせよ、裁判所は、事件の審理に入るに先立ちまずその判断を示すことを要せず、殊に申立がその理由のないときは、特にその申立を棄却する言渡をする必要がないことは、大審院及び当裁判所の判例の趣旨とするところである(昭和一二年(れ)第一七六〇号、同一三年三月一一日大審院判決、刑集一七巻四号一八六頁、昭和二四年(つ)第二七号、同年一〇月三一日大法廷決定、刑集三巻一〇号一六八三頁参照)。されば第一審が被告人の所論上申書及びその訂正申立書による申立に対し特に裁判を言い渡さなかったことは違法でなく、所論憲法三二条違反の主張は前提を欠く。

第三点は、判例違反を主張するが、引用の判例は本件に適切を欠き、論旨は結局訴訟法違反の主張に帰し、上告適法の理由とならない。そして、本件追起訴状の提出をもって、包括一罪を構成する行為で起訴状に洩れたものを追加補充しこれを審判の対象にする趣旨でなされたものであることが窺われないこともないとした原判示は正当である(昭和二九年(あ)第一四〇〇号同三一年一二月二六日大法廷判決、刑集一〇巻一二号一七四六頁参照)。

第四点は、違憲をいうけれども、刑訴二七二条、刑訴規則一七七条の規定は控訴の審判については準用されないものと解すべく、同規則一七八条の規定は控訴の審判についても準用されるが、同条により裁判所のなす弁護人選任の照会手続は、憲法三七条三項前段の要請にもとづくものでないことは当裁判所昭和二五年(あ)第二一五三号、同二八年四月一日大法廷判決(刑集七巻四号七一三頁)の判示するところであるから、所論違憲の主張は前提を欠き論旨は結局訴訟法違反の主張に帰し、上告適法の理由とならない。そして、本件は必要的弁護事件ではないから原審が被告人に対し同規則一七八条一項後段の規定により弁護人の選任を請求するかどうかを確めなかった違法があるとしても、右の違法は未だ判決に影響を及ぼすべきものとはいえない。

第五点は、当審における訴訟手続の法令違反を主張するものであって、原審ないし第一審のそれを主張するものではないから主張自体上告適法の理由となりえない。

第六点は、違憲に言及する点もあるが、司法書士法九条、二一条の規定は、司法書士という業務取締の必要上、司法書士の業務上の反則行為について司法書士を処罰する趣旨に外ならず、如何なる地位、身分にある人でも、いやしくも司法書士として業務上の反則行為をすれば処罰されるのであり、原判示もまたこの趣旨を判示させるものに外ならず(昭和三〇年(あ)第四八〇号昭和三二年三月二六日第三小法廷判決参照)、所論違憲の主張は前提を欠き、その余の論旨は単なる法令違反の主張であって、上告適法の理由とならない。そして所論の点についての原判示は正当である。

第七点は、判例違反に言及する部分もあるが、引用の判例は本件に適切を欠き、論旨は結局単なる法令違反と事実誤認の主張をいでず、上告適法の理由とならない。そして所論の点について原審のした判断は正当である。

第八点は、判例違反を主張するが、引用の判例は本件に適切を欠き、論旨は結局訴訟法違反の主張に帰し、上告適法の理由とならない。そして、所論の点については、原判決は、原判示事実は、所論指摘の点についても優にこれを認めることができ、事実誤認があるとは思われない旨判示して判断を与えていることが明瞭である。

第九点は、違憲に言及する部分もあるが、論旨は結局訴訟法違反の主張に帰し、上告適法の理由とならない。刑訴規則二四三条の規定は、控訴の相手方である検察官に対し答弁書差出の義務を課したものと解すべきではないから、原審の措置には所論の違法はない。

第一〇点は、主張自体何ら具体的な上告趣意を述べていないのであるから、結局上告適法の理由のないことに帰する。

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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